ガラスの棺 第23話 |
モニターに映し出されているのは各国の代表。 皆一様に厳しい表情で一人の少女を睨みつけていた。 そこには同じく厳しい表情で周りを見回している黒髪の女性。 『皇議長!これは一体どういう事ですか!黒の騎士団を独断で動かすなどあってはならない事だ!』 『議長という立場でありながら独断専行が過ぎる!』 『黒の騎士団は各国代表の承認があって初めて動くもの。それを私物化するような人物に議長など任せられない!』 各国代表は口々に議長である皇カグヤへ今回の件の責任を問い、議長を退任しろと詰め寄ったが、カグヤは平然とその言葉を聞き流した後、静かに言った。 「私物化しているのは皆様方ではありませんか?わたくしは緊急事態と判断し、民の安全のため迅速な対応を行っただけですわ。世界を守るための決断を非難されるいわれはございません。それとも、皆様方は突如見知らぬ戦艦が上空に現れても、何もせずに、まずは代表を召喚するべきだったと?」 淡々と返された内容に、各国代表は言葉を詰まらせた。 どんな理由があれ、黒の騎士団を私用で使う事は許されない。だから、 最初の内は皆隠れてやっていたが、いつしか隠す事さえしなくなっていた。皆がやっているから多少の私物化は非難の対象にもならない。議長であるカグヤもカレンを私物化していたため、余計に代表たちの感覚は麻痺していった。 その事を忘れ、敵に対して即座に防衛体制を整えた事を私物化と同列視し、非難など恥を知れと言われれば、それ以上口を出すことはできなかった。 「ゼロを名乗る裏切りの騎士が、再び我々を裏切ったのです。ごらんなさい、あの戦艦を。あのようなものを我々に悟られることなく建造していた以上、再び世界を戦火の渦に巻き込もうとしていることは明白。今、叩きつぶさねば再び無辜の民が苦しむことになるのです!」 世界平和の礎となるには、枢木スザクの名前は穢れ過ぎていた。 先日までゼロをブリタニアと取り合っていたが、今はもう討つべき敵だと断言したカグヤに、代表達は従うことにした。スザクに肩入れすれば悪逆皇帝に肩入れしたことになり、世界の敵とされてしまう。世界が今もルルーシュを非難し続けている現状を考えれば、その中に自分が加わるなど考えたくもない。その場で出された議案に対する投票は即座に行われ、反対票はなく賛成票のみという結果に、カグヤは笑みを浮かべた。 そして正式に、黒の騎士団へゼロ及びその協力者の討伐命令が下された。 「何を馬鹿な事を!それを認める事はできない!」 コーネリアは、その顔に憎悪と嫌悪を混ぜた怒りを乗せ怒鳴りつけた。ナナリーにこれほどの怒りをぶつけた事は無かったが、こればかりは容認できない。 「別にお姉さまに、認めて下さいと言ってません」 普通であれば萎縮するほどの怒りを向けた異母姉に対し、ナナリーは蔑むような視線を向けた。シュナイゼルとゼロが姿を消してから、コーネリアは口うるさく説教をし、干渉するようになっていた事を煩わしく思っていた。あの時と同じで、きっと自分を操ろうとしているのだ。自分の思い通りの人形を作ろうとしているのだと判断していたナナリーは、コーネリアの言葉を聞き入れる事はなくなっていた。 「認める認めないの話では無い!解っているのかナナリー、自分が今何と言ったのか!」 「解っておりますお姉さま。これが最善の方法なのです」 「最善!?なにが最善だ!いいかナナリー、いま我が国が保有しているフレイヤは、あくまでも研究用だ。他国がフレイヤを保有した時に備え、その効力を打ち破る研究をするために」 「お姉さま、私を馬鹿にしているのですか!その程度の事、私が知らないとでも!?」 ナナリーは侮辱するなと怒鳴った。 フレイアはダモクレスと共に廃棄されたが、一度生み出されてしまったモノは必ずまた生み出される。ルルーシュはフレイヤは無効化できる証明したため、今はロイドが主任となって自動でフレイヤを補足し無効化させるためのシステムの研究を行っていた。 その研究のために、厳重な管理体制の元、ブリタニアはフレイヤを所持していた。 「ならば何故そんな愚かな事を!」 「愚かなのはゼロとシュナイゼルお兄様、そして超合集国です!」 ナナリーは叫ぶように言うと、ボタンを押した。 それは控えている衛兵を呼ぶためのボタン。 コーネリアが気付いた時には既に遅く、ナナリーの執務室には衛兵がなだれ込み、ナナリーの命ずるままにコーネリアを捕えた。 「離せ!離さないか!」 「コーネリア皇女殿下、失礼いたします」 衛兵たちはコーネリアを拘束していく。 「皇女殿下、だと?」 衛兵たちの顔に見覚えが無い。まさかと、ナナリーを見た。 「お忘れですか?私は第100代皇帝ナナリー・ヴィ・ブリタニアです」 いままでナナリーの傍にいたのは、ゼロとシュナイゼルが選んだ者たちだった。旧制度を廃止し、新制度を軌道に乗せるために動いていた者たち。だが、今彼女の周りにいるのは・・・。 「お姉さまは数少ないブリタニア皇族のお一人です。丁重に扱う様に」 「「「イエス・ユアマジェスティ」」」 皇帝の命令に従い、兵士達はコーネリアを連れ出した。 「ナナリー!・・・っ、お前たち!馬鹿な考えはよせ!」 「馬鹿なお考えなのは皇女殿下の方でございます。下々の考えに感化され、ご自身が尊い血筋である事を忘れられている」 用意された離宮に、コーネリアは幽閉され 最悪の大量殺戮兵器が再び姿を現した。 重苦しい闇は、タールのような鬱陶しさで纏わりついてきた。 意識というものがようやく闇の中で目覚め、自分が誰かも解らないような混乱した記憶の中で、こんな事をしている場合では無い、起きなければと激しい焦燥感と後悔の念に後押しされるように一気に意識を覚醒させた。 目が覚めた場所は見知らぬ部屋だった。 痛む体を叱咤し、体を起こして辺りを確認する。 グレードの高いホテルの一室。 そんな感じの部屋だった。 状況の確認をしなければ。 鉛のように重い体を引きずって、寝かされていたベッドを降りて窓の外を見る。やはりホテルかと視界に広がる景色を見た。都会といっていい街並みが眼下に広がっており、少なくても自分は20階近い高さに身を置いている事が解った。 窓は開いてもほんの僅か。割る事は難しいだろう。最近は強化ガラスの窓もよく使われているし、窓を割っている間に音に気付いた誰かがやってくる。何よりこの高さから飛び降りれば即死だ。自殺した遺体として回収され、また同じ状況になるだけ。 新緑の髪の魔女は、自分の持つ最後の記憶をたどった。 川に飛び込み、激流を下った。大量の水を飲み、溺れかけながらもどうにか死を免れ、あの橋から遠く離れた川岸へと流れ着いた。胃に入った水を吐きだし、身動き一つ取れないほどの衰弱に、さてどうしたものかと思考を巡らせたまでは覚えている。 あのまま意識を無くし、発見されたか。 無関係な者なら警察と救急車。 変質者なら第三者の立ち入らない自宅や別荘に監禁。 となると私は掴まったわけだ。 しかもこんな場所に堂々と死体を運べる者に。 私がコードを持つ不死者と知っているようだから、響団関係者かと思ったが、私を響主とすることが目的ならこのような手段で追うのはおかしいし、モルモットにする目的なら拘束していないのはおかしい。 さて、どういう事だろうか。 暫く思考を巡らせていると、コンコンとノックの音が聞こえた。 意識が戻っていることに気づいたか。ならば監視しているな。 「・・・起きている、入れ」 返事をしてもしなくても、相手はどうせ入ってくる。 こうなれば出来る事は一つだけ。 相手から情報を引きだし、隙きを見て逃げる。 すっと目を細めたC.C.は扉が開くのを見つめていたが、その人物の姿を目の当たりにして驚き目を見開いた。 開かれた扉から室内へと入った人物は、ゆっくりとした足取りでC.C.へと近づいた。 ・・・これは、予想外にもほどがあるだろう。 動揺のあまり思わず渇いた笑いをこぼしてしまう。 それは、C.C.もよく知る人物だった。 「まさか、私を追い回していたのが・・・お前とはな」 知ってはいるが、こうして顔を合わせるのは初めてだし、こちらの存在を知らないものだと思っていたのだが。 C.C.は動揺を悟られないよう、魔女の笑みを顔に張り付けた。 |